普通こうした催眠音声作品においては邪魔になるはずの環境ノイズを大々的に用いた誘導を行う、唯一無二の個性を持った作品。
で、ありつつ、基礎的な部分での技術の凄まじいハイレベルさが感じられる。
コンセプトを実現するために堅実なアプローチを緻密に重ね、結果として独創的かつハイクオリティな一品になっている。
例えば雑踏の人ごみの中でも人に呼ばれた途端、その声がハイライトされるようにはっきりと聴こえる。
そんな意識のフィルターは誰もが無意識下で知っているものだけど、それを優しく引きずり出すようなアプローチは、これぞ催眠音声と言ったところかな。
ミュージック・コンクレートだとか、エクスペリメンタル・テクノといった領域の音楽は、人間の聴覚の在り方を逆手に取った音響設計をするけれど、それに近いような感触。
だからこれは美しい作品だと感じる。
例えばテクノアーティストのトーマス・ブリンクマンの作品がそんな手法で聴取者の意識を覚醒へと導くが、自分の中ではその横に並べる作品だ。
まったく別のスタイルの音の作品がその職人的な超絶技巧によって同じ高みに達してしまうような。
音響作品~音フェチ的な観点からのアプローチとも捉えられるので、先に挙げたコンクレートやフィールドレコーディング等、好きな人にもぜひ試してもらいたい。
音によって意識が導かれるということのまた別の面を体験できるだろう。
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